川島北山町で家具工房「RITON」を経営する大西鉄平さん。
その語り口は柔らかく、言葉を丁寧に選びながらの真摯な受け答えが印象に残った。お話を聞かせて頂く中で筆者が最も強く感じたのは生粋のクリエイターとしての情熱だ。大西さんが木工の専門学校に入学したのは29歳の頃、職人としては決して早くはないタイミングだと思う。当時仕事を手伝っていたお父さんの鉄工所を引き継ぐと言う方向性もあっただろう。そこに迷いはなかったのか?つい聞いてしまった。逡巡することなく「なかったですね」との返答。自分のやりたいことに対して常に正直なのだ。僕は何をするにしても石橋を叩きすぎては壊してしまうタイプ、自分との違いを実感した。専門学校を卒業後すぐに工房を構えたこと、専門学校に在学中、今の奥様と出会いすぐに結婚を決めたことにもびっくりした。少しは迷えよとも思う(笑)。うまくいかなかったらどうすんの?と。そんな凡人の常識などは軽く飛び越えてしまう軽やかさ。イメージするものを具現化するということに対して、なりふり構わず猛進する力強さ。モノづくりに対する飽くなき情熱がそうさせるのだと思う。
子供の頃、お父さんがツナ缶を使って作ってくれたラジコン。動いた時の驚きと喜びが、大西さんの原点だ。同級生がテレビゲームに興じる中、1人黙々とプラモデル、ラジコンを作る毎日。高校生の頃には自宅の家具も作っていたと言う。「世の中にないものは作ればいい」。今、少年の想いは現実のものとなり、世界に1つしかないRITONの家具を生み出した。
「空間を豊かにする美しい家具」をうたうRITONは、tone(音色、色調)を再構築(Re)すると言う意味がこめられた造語だ。大西さんが大好きな60年代、70年代当時のデザイン・雰囲気をベースにした家具を提案している。ただ真似をするのではなく、デザインのエッセンスを活かしつつ現代でも通用する家具として再構築、具現化する。鉄、真鍮、銅、ステンレスなどの金属素材と無垢材とのミックスも特徴だ。工房内はコンクリート打ちっぱなしのシンプルな空間。静謐な雰囲気ながら、存在感の大きな家具たちがそこここに置かれていることで、ほのかに暖かい。家具それぞれが、自身にかけられた手間の分だけ温かみを帯びている様にも感じた。
工房のある川島に自宅も構えている大西さん。ビジネス・プライベートともに地元でのネットワークが構築されつつあるそうだ。その中で将来に向けたビジョンも固まりつつある。空間を豊かにする。ここ各務原市を発信地とする大西さんの挑戦は続く。
南村 高志MINAMIMURA TAKASHI
1979年生まれ。会社員、2児の父です。音楽好きで週末の夜は柳ケ瀬界隈のライブハウスに出没します。市民ライターへの応募はOFTにタダで入れるのでは?との不純な動機からでしたが、まじめに各務原市のヒト・モノ・コトを発信していきます。