「ワールドカップテイスターズ」という大会をご存じだろうか。出場する選手たちは、大会へ向けて日々トレーニングを重ねる。大会間近になると、食事内容も厳しく制限し、ストイックに取り組む選手もいるそうだ。
ここまででスポーツ競技を思い浮かべる人が多いだろうが、実は珈琲の大会である。「カップテイスターズ」は、産地や焙煎がわずかに異なる珈琲を香りや味で識別する大会だ。この競技唯一の道具である「カッピングスプーン」と、経験を積んだ自身の感覚を頼りに挑むシンプルかつ奥深い競技である。
そんな競技の世界に飛び込み、2022年日本チャンピオンに輝いたのが石原匠真さんだ。学生時代、兄が淹れてくれた珈琲の美味しさに感動したことをきっかけに、珈琲の世界へと足を踏み入れたという。その面白さや探求心は趣味に留まらず、ついには当時行きつけであったカフェでバリスタとしてスタートを切った。働いて2年ほど経過した頃には、珈琲豆の焙煎を任されるようになり、更に繊細な豆の香りや味の識別力が必要だと感じた。そこからテイスティングにも力を入れていったそうだ。
テイスティングでは、「カッピングスプーン」とよばれる専用のスプーンを使う。たったひと匙にのせた珈琲を勢いよく吸い、その蒸気から香りや味の僅かな違いが識別できるというから驚きだ。石原さんは世界への切符を手にした際、このパフォーマンスを一から見直したという。スプーンの深さやテイスティング時の体の角度など、一連の動きの最適な状態を地道に探った。自身と向き合うこの時間は、しんどく長かったという。
「話すのが得意ではないので、黙々とやることが自分に向いている」
石原さんにとって大会は良い緊張感があり集中できるのだという。惜しくも映像での視聴であるが、黙々とテイスティングを進める姿や集中力には見ているこちらが緊張してしまうほどだ。様々な大会を通し、全国各地で審査員や講師を務めるなど、珈琲に対する関わり方はどんどん広がっていったそう。この業界ではまだまだ若手である石原さん。自身の大会進出をきっかけに、若い人が珈琲の世界を知るきっかけにもなればと語る。
「好きだからこそ挑み続けられる。楽しくなければ続けられない。」
繰り返し口にした「楽しい」という言葉から、珈琲が心から好きなのだと感じられた。そんな石原さんであるが、毎日2~3時間のトレーニングを欠かさず、努力を惜しまない。
「好き」を形にする。その挑戦を地元各務原から、これからも応援していきたい。そして石原さんのように、自身の「好き」や「楽しい」を見つけ、人生にしていく人がこのまちにもっと溢れてほしいと思う。
撮影協力:喫茶室山脈
村瀬 恵里佳MURASE ERIKA
食べることが大好きで、市内外の美味しいもの巡りをしています。 ライターを通してたくさんの繋がりができ、各務原での活動がより一層楽しくなりました!美味しい情報随時募集中。