「これは私がパイロットの訓練で最初に乗った飛行機なんだ」と岐阜かかみがはら航空宇宙博物館の展示機を前に微笑みながら話すのは、航空写真家として活躍している赤塚聡さんだ。赤塚さんの写真は、実物を見ているかのような鮮明で綺麗な写真。私は思わず目を奪われた。そして「事前の準備が最も大事だ」と秘訣を語ってくれた。
赤塚さんがカメラと出会ったのは小学校高学年のとき。父親のカメラに触れたことがきっかけだ。「最初はうまく使えなかったカメラが段々と上手く使いこなせるようになることを実感できるのが面白くてね。」気づくとお小遣いのほとんどを注ぎ込んでいたそうだ。その表情には、幼少期からのカメラ愛が垣間見える。高校生のとき、望遠レンズの購入を機に幼い頃から好きだった航空機を撮り始め、次第にその実力が認められ雑誌の取材も頼まれるようになる。
取材の縁で航空自衛隊に入隊。1番思い出に残ってるフライトはの問いに対し、「昔から写真を撮るために追い続けてきたF-15戦闘機を初めて操縦したときは忘れられない」と。なんともカメラマンらしい感想だ。その後、航空自衛隊を退職し本格的に航空写真家としての道を歩み出す。
赤塚さんは、地上に加え、航空機に同乗し編隊で飛行する機体を撮影する。それは過酷そのものである。約3キロのカメラは上空に行くとGがかかるため約15キロ。コクピットを覆うキャノピーに映りこむ反射を手で遮るため、使えるのは片手だけだ。露出やシャッタースピードなどその場に応じた設定も行う。赤塚さんの体つきはもしかしたら自衛隊時代ではなく航空写真家になってから出来上がったのかもしれない。
満足のいく写真を撮るために最も大切なのは準備。準備が9割。上空での撮影は1割程度だという。なぜなら機体というのは事前の打ち合わせ通りの動きしかしない。アドリブは一切ない。「事前にどれだけ緻密にイメージし、それをパイロットたちと共有できるかが空撮カメラマンとしての腕」と話す。
こんなにも綿密な準備が必要とは知らなかった。これがカメラマンとしての赤塚さんのプライドなのだろう。ただし、機体の性質から最も安全な飛行方法を割り出し、どれだけいい構図だとしても安全面から「あえて撮らないという選択肢も持っている」とパイロットらしさも滲ませる。これが赤塚さんが航空写真家である所以なのだ。
航空分野におけるいい写真とは、危険を犯した非現実的な写真の構図ではない。安全で現実的で、その中に美しさや理想が詰まったもの。これが本当の意味でのいい写真なのだ。
「引き続き上空を飛んでいる飛行機本来の姿を写真に残し、航空写真家としての集大成に向け、さらに強いエンジンをかけていきたい。」赤塚さんのフライトは終わらない。
撮影協力:岐阜かかみがはら航空宇宙博物館
小川 永豊e.ogawa_ofk
2000年生まれ。各務原市出身。この街と共に思い出を作ってきました。 魅力あふれるこの街に少しでも興味を持っていただいたら嬉しいです。