国道21号線からほど近い、手前にある大きなカフェと一体化したような古民家風の建物。イタリアの国旗がお店のオープンを知らせるのは、イタリアンレストラン・Un Passo alla voltaだ。
その意味は「一歩ずつ」。お店も自分も一歩ずつ成長していきたいと名付けたという。なかなか名前を覚えてもらえないけどね、と笑うのは、各務原在住の店主・大島昌司さん。自宅から近い場所で洋風のお店をと考えていたが、偶然この場所との縁が繋がったそうだ。

外観と同じ黒褐色の店内は、和洋のシックとカジュアルが絶妙に絡み合って何ともお洒落だ。私が座る半個室のようなテーブル席は、黒いテーブルにベージュの椅子といった落ち着いた雰囲気。ここから厨房の上を見上げると、吹き抜けの天井に太い梁、その先の小さな窓から光がやさしく注ぐ。視線を落としていくと、黒板にチョークで書かれたメニューと皿やお酒が並ぶカウンター。真っ赤な椅子が並び、ここだけ賑やかなイタリアンバルを彷彿とさせる。自席の後ろの窓についている昭和レトロなネジ式の鍵には、懐かしさで思わず笑ってしまったが。

自然と落ち着くこの空間で、岐阜市や各務原市などの店で腕を磨いたというシェフの料理をいただく。オーダーは、ランチCコース。
おすすめの一品は、メニューごとに4種類の自家製パスタを使い分けるパスタ料理だと聞きコースに追加する。前菜の後にサーブされたずわい蟹と季節の野菜のオイル仕立てのキラッタのパスタは、もっちり食感にソースが絡む。肉か魚を選べるメインは、鮮やかな野菜が添えられた白川郷結旨豚のグリル。厚みがあるのに驚くほど柔らかく、その味わいにワインを傾けたくなってしまう。食材は仕入れにこだわり、どの料理も丁寧に仕上げられて美しい。
食事の最後は、パティシエである奥様の紗世さんが作るドルチェ。皿の上には、フルーツとラズベリーのソルベにロールケーキ、イタリアンプリンが並ぶ。ドルチェは、テイクアウトで家でも味わうことができる。
夜には、コース料理のほか単品料理もいただける。

コロナ禍が明け、「やっと来られたよ」の常連さんのひとことに喜びをかみしめたのは年末近くのこと。訪れたこの日も、夜に大口の予約が入っていると、取材の合間も仕込みに忙しそうだ。大島さんにとって、自分の料理を認めてもらえ、自信を持たせてくれた場所がUn Passo alla voltaなのだと言う。これからも名前に違わず一歩ずつ、お客様とともにあり続けるだろう。