おがせ街道の南。木々に覆われ佇む、一軒の蔵のようなカフェがある。お店の名前は葡萄屋蔵ぶ。あらゆる方向につるを伸ばして成長し、豊かな実りにつながることから、縁起が良いとされる葡萄を店名に入れた。
大きな扉を開けると、コーヒーの芳醇な香りが出迎える。入口すぐの重厚感ある階段を上り店内へ。西洋館を思わせる店内は、アンティーク家具で揃えられ、葡萄をあしらった棚や壁飾りが至るところにある。「自分の好きなものを集めている」と、オーナーの平尾正子さん。華やかなカサブランカや薔薇が、一点の灯りのように色を添える。ガラスのオーナメントがやさしく揺れるもみの木が、季節の彩りを添える。そして、壁や天井に映し出されるペンダントライトの陰影が、まるでダンスホールを思わせるクラシカルな雰囲気を演出する。「小説を書いて思いに耽る場となるような、落ち着く雰囲気が良い」という、平尾さんの理想が詰まった非日常的な空間だ。
各務原が地元の平尾さん。かつてこの場所がイタリア料理店だった頃から、この建物や雰囲気が好きだった。閉店したことを知り、この建物を購入。経営の知識もなく戸惑いもあったが、「お客様の立場なら分かる」と、店をはじめ、早20年が経とうとしている。
ランチメニューは、黒米と30種類の野菜を使用。栄養はもちろん、彩りのよい食事が楽しめる。トマトソースを一から作るという洋風煮込みハンバーグなどのメニューもあるが、今回は一番人気の「豚肉のしそ巻き」をいただいた。口の中で広がる青じその香りと柔らかいお肉の食感がくせになり、次々と箸が伸びる。素揚げした多くの種類の野菜も、素材の味が楽しめる。食後の珈琲とシフォンケーキも堪能しお腹いっぱいだ。
珈琲や紅茶などのホットドリンクは、白いカップで統一。シンプルにもかかわらず、繊細な造りのカップとソーサーが、ほっと心を落ち着かせる。
カウンターには小説や絵本、レジカウンターにはチェスや知恵の輪など。インテリアの一部のようなこれらは、お客様が使用することができる。「ゆっくり過ごせる空間でありたい」という思いが表れている。
お客様の口コミで広がり、愛されるお店に。「ベストセラーではなくロングセラーでありたい」。
店主の思いが詰まった、思わず長居したくなる心落ち着く空間に、また訪れたいものだ。