店の前を通る旧中山道は砂利道で、まだ馬車が走っていたという昭和4年。「肉の大和屋」は、精牛豚卸小売店「大和屋牛肉店」として那加商店街に店を構えた。現在は、岐阜県のブランド牛である飛騨牛の販売指定店として、4代目店主・植田勇さんと妻のひろみさん、息子の英雄さんの3人で切り盛りするまちの精肉店だ。
数年前にリニューアルした店内は、白を基調とした洗練された雰囲気。大きなショーケースの中に肉がずらりと並び、天井には店の奥まで一筋の赤いレールが伸びる。これは、牛の枝肉を吊るして運び込むレールだそう。役目を終えた今、店の歴史を語るシンボルとしてその姿を残している。
ショーケースの奥から「いらっしゃいませ」とにこやかに出迎える親しみのある対面販売はずっと変わらないこの店のスタイル。次代を担う英雄さんは、肉の専門学校で学び、確かな知識と技術をもって店頭に立つ。たくさんの人に大和屋のことを知ってもらい、「専門店っていいな」と思ってもらえるよう日々奮闘している。SNSで「今日のおすすめ」などの発信を始めたことで、遠方から店を訪れる方も増えたそう。すぐに食べられるどて煮や肉吸いといったお総菜も好評だという。「最近は、若い人たちが商店街を盛り上げようと頑張っている」と、ひろみさんは目を細める。
「欲しいのものを好きな分だけ注文できるのが専門店の良さ」と3人が口を揃える。扱うのは、A5等級の飛騨牛、黒毛和牛のほか、けんとん豚や清流美どりなどの岐阜県産の肉。シャトーブリアンやサーロインなどのステーキ肉は欲しい量で切り分け、ひき肉は好みの割合で配合も可能だ。作りたいメニューを伝えれば、それに合う肉や調理法の提案など、会話を楽しみながら買いものができるのも大和屋の魅力の一つだ。
鮮度の高いショウチョウ、ハツ、レバー、ミノなどの内臓系が手に入るもの専門店ならでは。店内で下処理し真空パック、急速冷凍することで美味しさを保っているという。
おすすめの調理方法を伝授され、ハツとショウチョウを買い求めた。ハツは炙って塩とごま油で。勇さん特製のみそ味のショウチョウは、炒めるだけでご飯にもお酒にも合う一品の出来上がり。プリップリの食感で脂の甘みが口内に広がり、たまらない美味しさだ。
上質な美味しい肉を扱う店だけじゃない。那加のまちで続く精肉店は、こんなにもあったかい場所なのだ。一度、足を運んでほしい。